瀬戸内オリーブ基金

中條愼也さん



先人から受け継いだふるさとの自然を、次世代の子供たちへ

「瀬戸内海の海の底には大量のごみが沈んでいる。これは漁業問題ではなく、市民全体の問題だ」と警鐘を鳴らし、環境問題として一緒に取り組もうと当基金に声をかけてきたのが、海守さぬき会の中條愼也さんでした。海守さぬき会の精力的な活動が、当初は無関心であった香川県にも大きな影響を与え、「県海ごみ対策推進協議会」発足に結びついています。(高松市 2013年8月)







海底ごみに取り組まれたきっかけは?

香川県高松市沖の男木島は、私の第二のふるさとです。島は人が少ないので色々と関わるなか、魚でもてなしてもらうことが多かったのです。そして「魚がとれなくなった…」という話を誰もがするのです。
「海守(うみもり)」の事業の目的は「きれいで・安全で・豊かな海を自分たちの力で守る」ということです。
はじめは、海が汚れていてとれないのだ……と思っていました。しかし男木の海は昔より透明度も増し確実に「きれい」になっています。でも「豊か」ではなくなった。「豊か」でないから魚が育たない、とれない。「豊か」でないとは、どういうことなのだろう……ということがきっかけでした。
底曵き網漁の人たちと話すとこうでした。
「ごみがあがってくる。ごみのほうが魚より多いことがある。冷蔵庫や洗濯機があがり、網が破れ、非常に操業の邪魔になっている」……。
ごみを引き揚げて持ち帰ると、当時の法律では産業廃棄物として処理しなければなりませんでした。自分の出したごみではないのにも関わららず、漁業者がお金を出して処理しなければならなかった。そしてごみの発生源である瀬戸内海流域の住人たちは、その事実を知らなかったのです。
この実態を世間の人たちにも知ってもらって、排出抑制のための運動をしなければいけない……。そこで瀬戸内オリーブ基金との関わりが始まりました。そのことが現在、山に木を植える、ということにまで展開していきます。


そのほかの瀬戸内海の海や島との関わりは?

まず男木島に観光地、水仙郷をつくる活動を始めました。十数年前の当時、男木は高松市内の住人でさえ、ほとんど行ったことがないような島でした。今、人口は200名弱です。
現在では14,000本もの水仙が咲くようになったのですが、そこで知人が認知症のために行方不明となったことがありました。
たとえば介護保険料は40才以上の人すべてが支払いますが、男木には介護サービスを受ける施設がありませんでした。島に施設があれば、知人にも違った結果があったかもしれない……と考え、「じゃあ、自分たちでつくろう」ということで、福祉の事業も始めることにしました。日本で一番小さな介護事業所、と言われています。


香川県では、瀬戸内海を「豊かな海」として保全・再生することを目指し、海域・陸域一体となった海ごみ対策を推進する「香川県海ごみ対策推進協議会」が設立されましたが(2013年5月)、ご感想は?

誰かがやらなければいけない事業でした。でも行政主体ではできないことがあります。
井戸を掘るためには「呼び水」がいります。その呼び水となってくれたのが瀬戸内オリーブ基金でした。たとえば行政の補助金は事業終了後の支払いですが、民間の助成は、事業立ち上げの時の呼び水、またいわば活動のための燃料となってくれます。これが大きなエネルギーとなりました。
「海底ごみ目に見える化計画」という事業名が社会からの注目を集めることとなりましたが、この名称は、実は瀬戸内オリーブ基金からの提案です。「海底ごみ目に見える化計画」というセンセーショナルな名前が、問題の普及啓発のために役立ちました。
また講師に迎えた人たちも、海底ごみ問題では、もっとも高い見識を持たれる方々だったことも良かったです。
その後、海守さぬき会が香川県から海底ごみに関連する事業を受託しました。その活動の中で、たくさんの人たちとの協働の成果として、海底ごみの環境体験学習に参加してくれた中学生の研究報告を冊子にまとめることもできました(『海ごみと ぼくたち・わたしたちのくらし 瀬戸内海は、今、どうなっているの?』海守さぬき会発行 2011年)。
これまで海底ごみを扱った人たちはおらず、その教材すらなかった状態だったのです。また「海岸漂着物処理推進法」を立法した超党派の議員たち、それから「地域グリーン・ニューディール基金」を創設した環境大臣にも、瀬戸内オリーブ基金とともに海底ごみ問題の重要性について提言を行ないました。
「瀬戸内海の海底に沈むごみの現状を知り伝えること」。ダイバーにお願いして水中カメラで海底ごみの撮影もしました。また「環境学習を含め、排出抑制に向けた取り組みを行なうこと」。そして「行政に働きかけ、海底ごみ回収の模範的な事例として処理方法を確立すること」。
以上が事業の三つの大きな柱でした。現在では操業中に回収されたごみの位置付けも産業廃棄物から一般廃棄物になっています。


あえて問題点をあげるとしたら何でしょうか?

今回の協議会には、市民団体が入っていません。それとコーディネート機能が行政の役割になっています。結論ありきの協議会でもいけませんし、またコーディネートは民の方が上手だと思います。
またこれはそもそも香川県だけの問題ではないのです。大阪、兵庫、岡山など瀬戸内海に接する地域だけの問題でもなく、滋賀県など水系を同じくする内陸の自治体にも関わる問題であることも忘れてはなりません。
たとえば岡山県の河川から県境を越えて瀬戸内海に流れ込む水の色を船で行って実際に見てみてください。そうすれば、よく理解してもらえることだと思います。


今後の取り組みについて教えてください。

回収可能とされる海底ごみだけでもまだ1万3千トンある、と言われています。これ以上、増やすわけにはいきません。
今後は、植樹を含めた実際の環境学習を島々と山間部で行ないます。そして大きな柱は、学校の先生たちへの教育です。
まずは今までと同じように、まちのこどもたちに河川のごみ調査をしてもらいます。それから島に行って、操業現場の底曵き網の船に乗せる。そこからごみあがってくる様子を見せる。そして島で交流してもらいます。
また島の子供たちをまちにつれて行く。それから山で木を植える。そのことで「ここから流れこむ水が海を豊かにするんだ」ということを知ってもらいたいのです。
そして学校の先生たちにも、子どもたちと同じような環境学習を体験してもらいます。先生たちに意識を高めていただく必要があるのです。
実は香川県では、もう山の学校はなくなっています。「今、学校で子供たちへの環境学習に取り組まなければ、5年後、10年後、20年後のふるさとはなくなってしまいますよ……」という先生たちへの教育も行なう予定です。 
これらの取り組みを継続することで、環境改善に向けた流れにしたいと思っています。「豊かな海」をつくるための総集編、総括として、木を植えること、将来的には魚付き林の創出もやりたいと考えていますが、まだまだむずかしい状況です。


自分にとって「ふるさとの海」とは?

官主体、行政主導ではできないことがあります。たとえば豊島の産廃問題でも、そこで暮らす人たちが「これはおかしい」と声をあげたからこそ、多くの人たちが応援したはずです。住民主体、住民本位、住民主導であるべきです。そして民間でしかできないことがあります。多くの人たちとのつながりなどがそうです。
ふるさとの自然は、先人が私たちに貸してくれているものです。だから借りたものは借りた時よりもきれいにして、次の世代に渡す。それが私たちの仕事だと思っています。